2011年8月22日月曜日

【イエメンはどこに行く・13】《イギリスから見た中東》

今朝(2011年8月22日)のニュースで、リビアのカダフィ大佐の次男が反カダフィ勢力に捕まって、いよいよカダフィ体制も末期だというような観測が伝えられていました。3月後半に始まった欧米による反カダフィ派支援の軍事行動がようやく結実しそうです。しかし、この半年近くにわたって繰り広げられた干渉行為は、決して正気の沙汰ではないと思います。欧米の人々がこれを冷静に認めるようになるにはしばらく時間がかかるでしょうけれど。

さて、私がまだロンドンにいた先月(2011年7月)、セントジェームズ広場に面した王立国際問題研究所(通称チャタム・ハウス)で「オサマビンラーデン後の世界~9.11以後の十年」と題したセミナーがありました。その場を支配している論調を聞いていると、かつてのアデンの宗主国であったイギリスでさえも、現在中東で起こっていることを、現地の固有の事情などより、自国の都合で解釈するバイアスがきわめて強いことが印象的でした。

セミナーは二部構成でそれぞれ75分ずつ。司会が提示した問いに対して、三人のスピーカーがそれぞれに話をし、そのあと30分ほど質疑の時間を取るというスタイルです。チャタムハウスの通常のセミナーは60分ということが多いので、いつもよりも質疑の時間が多かったのです。

興味深い問いは「オサマビンラーデン(UBRと略している人がいました)が死んでテロとの戦争は終わったのか」「イギリスの治安状況は改善するのか」などで、もちろん専門家たちはおおむね「YesでもありNoでもある」というような答えをするのですが、問う側も答える側も「中東地域が安定するかどうか」はどうでもよくて、「イギリスにおけるテロの脅威は低減するのか」にもっぱら関心があるということがよくわかります。このロジックだと、イギリスに住む人々に対する脅威が低減するなら、中東で事態が混乱してもかまわない、ということにもなりかねません。その地に住んでいる人の幸せより、まずは自分たちの身の安全。

コーヒー・ブレークの時にクッキーのそばに置かれていた政府発行のパンフレットは、私にはさらに興味深いものでした。タイトルは「Conest:The UK`s strategy for COuntering Terrorism」発行は July 2011。できたてのほやほやです。

  その中にはこんなことが書いてあります。「昨年一年で1万人がテロの犠牲になっています。」「アルカーイダの指導部は(ビンラーデンの死を経て)9.11事件以来最も弱体化しています。」「アルカーイダは「アラブの春(中東における民主化デモ)」に何の影響力も及ぼしていません。」つまり、テロの脅威を国民に啓蒙しつつ、イギリスはアルカーイダの封じ込めに成功しつつある、というメッセージです。

イギリスに住んでいると、西欧キリスト教徒のイスラム教に対する本能的な恐怖感を感じることがしばしばあり、アルカーイダに対する嫌悪感の大半はこうした感情に根ざしているように思います。そして西欧人が「アラブの春」における民主化デモ勢力、とりわけリビアの反カダフィ勢力を判官贔屓ともいえるほどに支援したがる(支援のために空爆までしてしまう)理由の一つが、こうした民主化勢力はアルカーイダの対抗勢力だと考えているからなのでしょう。

パンフレットにはアルカーイダ対策の全体的な楽観が表明されつつも、「しかしアルカーイダの系譜の組織が、特にイエメンとソマリアで過去二年で現れてきました」との言及があります。これが、現在イギリスにおけるイエメン注視の根拠となっているわけです。決してイエメン人の置かれている状況に対する同情からではありません。

また、パンフレットはHomegrown terrorist、すなわちイギリスに生まれ育ちながらもイスラム過激派の思想に共鳴する人々に対する警戒を呼びかけています。その重要な「洗脳」拠点としてパキスタンの脅威が指摘されており、それゆえにイギリスの外交はパキスタンの安定に注目するのです。

ところで、このパンフレット、後半は北アイルランドのIRAの話が続くのです。つまり、どちらも純然たるイギリスの国内問題なのです。おそらくアメリカの市民にとっても同様でしょう。6月にワシントンに行ったときにも、地元の人々は「今日のワシントンDCのテロ警戒警報は、オレンジレベル(要注意)」というようなことをお天気の話のようにしていました。

英米が、こうした「国内治安対策」の延長上で軍事作戦を展開したり、中東・アラブの政策を考えるのは仕方がないと思います。しかし、日本がそうした政策に同調しなければならない理由はほとんどありません。ならば、イエメンの庶民の生活の安定の寄与する、長期的な視野に立った適切な対策を提案できるのは英米よりも日本ではないでしょうか。現実的にはそれが難しいことは重々承知していますが、それでも日本外交のイニシアチブを期待したいところです。がんばれ外務省の中東関係者!
【2011/8/22 佐藤寛】

2011年8月5日金曜日

日本国政府はイエメン国内避難民支援

平成23年8月1日に外務省発のプレスリリースがなされましたので全文記載いたします。


1.
8月3日(水曜日),我が国は,イエメンの人道状況改善に貢献するため,国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR)のイエメンにおける活動に対し1億円を拠出する予定です。
2.
イエメンでは,本年2月以降,33年間政権の座にあるアリ-・アブドッラー・サーレハ大統領の退陣を求める反政府派と治安機関等との衝突が継続し,これまでに300人以上が死亡しています。また,同国では30万人以上の人々が国内避難民(IDP)となっています。このような状況を踏まえ,この拠出は,イエメンIDPに対する支援等に活用されます。

【参考】
(1)
イエメンは人口2,358万人(2009年)で国民一人当たりの国民総所得は1,060ドル(2009年)。アラビア半島で唯一の最貧国。
(2)
サーレハ大統領は,1978年北イエメン大統領に就任。1990年の南北イエメン統一後はイエメン共和国大統領。通算33年間政権を維持している。本年4月より湾岸協力理事会(GCC)が,平和的権限移譲に向け仲介を行ってきたが,大統領は現在までGCC仲介案を拒否している。6月,大統領は,大統領宮殿内の爆発で負傷し,現在サウジアラビアで治療中。
(3)
南部のアビヤン州では,本年3月以降,勢力伸長を計るアル・カーイダ系武装集団と政府軍との戦闘が継続しており,このため,同州の住民4万5,000人以上が周辺地域に避難した。北部のサアダ州等では,2004年以降,6度に亘り発生した反政府武装力と政府軍の間の大規模武力紛争により,約30万人がIDPとなっている。

以上

日本イエメン友好協会
事務局長

2011年8月2日